ティルスの主神。冥府の王にして、植物の生長サイクルを司る者。狩人。
しばしば審判者バール Baal と同一視され、メルカルト固有の神話は判然としないが、バールの妹アシュタルテ Ashtarte の息子にあたり、神としての性質も異なっている。ただし、バールの冥府の王としての相はとくにレプ・バール Repu Baal と呼ばれているが、ここではこれはメルカルトと同一視しておく。
その位相と、地中海全体から発掘されたメルカルト神殿の遺跡から推して、海神の性格も帯びていたようである。
ウガリットでは、祝福された死者の魂は、冥界に下り、嵐の神にして冥界の王たるバール・ハダド Baal Hadad に食べられると信じられていたが、この世界観はメルカルト信仰にも持ち込まれたであろうと考えられる。
ギリシア人はメルカルトをヘラクレスと同一視しているが、自分たちのヘラクレスより古い神性であることを認めてもいる。
ティルスの大神殿には、純金の2本の支柱があり、他の柱もエメラルドで飾られていて、夜でもぴかぴか光っていたと伝えられており、広く信仰を集めたことがうかがえる。
メルカルトは海馬に乗った王として描かれる。