マルキオン教の諸宗派
Sectæ Malkionorum
http://www.ttrotsky.pwp.blueyonder.co.uk/malkioni/sects.htm

 悲しむべきかな、マルキオン教徒は曙の時代以来、単一の信条の下での統一を失ったままでいる。聖ヘリジャンの打建てた、偉大なる二大預言者たるフレストルとマルキオンの教えに基づく原始教会は、教義の解釈をめぐって何度も分裂してきた。曙の時代の後半にはすでに、聖テイロールの主導する北方諸教会は、聖ガーラントの主導する南方諸教会とは異なる教えを教義の眼目とし、異なる典礼を実践していた。英雄戦争が迫りつつある今日では、[本来の教えからは]あまりにもかけ離れ、もはやほとんどマルキオン教徒とは呼ばれえないほど逸脱した宗派もいくつかある。ここでは[マルキオン教の]諸宗派のうちのいくつかを概説している。だがこれは完全なリストではない。


二大宗派

フレストル求全派新教会 The New Hrestoli Idealist Church

「望みうる限りの高みへ」

設立者:聖ジグラット (16世紀)
地域:ロスカルム王国、ジュノーラの一部、ジャニューブ川河谷地帯の一部
経典:『不変の書』、『フレストル教会共同祈祷書 Hrestol's Book of Common Prayers』、『ジグラットの幻視』

 近代マルキオン教諸宗派の中でも最も新しく、かつ最も影響力のある宗派の一つである、フレストル求全派新教会は「大破門」の間にフロネラのフレストル革新派教会から派生した。聖ジグラットは宗教的な幻視を体験し、そこで預言者フレストルは彼に再編された世界を見せた。彼はこの幻視で見た理想郷を現実に敷衍すべく、「大破門」で孤立した現状を利用した。ロスカルム人はすべての男女はみな「農民階級」の一員として平等であり、すべての「農民階級」は功績を挙げることで「[上の]階級(兵士、騎士、魔道師、貴族)」へ昇進しうるものである、と信じている。この国では、最高位の貴族さえ普通の農民としての生活を経験し、自らを支配者にふさわしい者と証明しなければならない。ロスカルム人は多くの聖人を崇拝し、魔術の多くはこれら聖人の教えを通じて習得する。彼らの典礼は、賛美歌の合唱に力点が置かれていたり、教会内で男性信徒と女性信徒が同席することを許されていたりするなど、多くの点で[マルキオン教の中では]逸脱している。


ロカール公教会 The Universal Rokari Church

「唯一の神、唯一の教会、唯一の王」

設立者:預言者ロカール (14世紀)
地域:セシュネラ王国、ノロス公国、クィンポリク同盟、セイフェルスターの一部
経典:『不変の書』、『ロカール書 the Book of Rokar

 預言者ロカールは、堕落し、あるいは絶望していたセシュネラのマルキオン信徒たちを奮い立たせ、近代諸教会の中でももっとも強固でもっとも意義深い教会の一つを打建てた。彼は宗教的な幻視でマルキオンにまみえ、マルキオンは彼に本来の啓示がいかに損なわれてきたかを示した。彼は古くからの[信仰の]亀裂を修復し、セシュネラ人に修復された確固たる信仰をもたらすことを企図した。鉄槌公ベイリフェスは[セシュネラ全土を]自らの足下に征服し、この預言者の活動に呼応して近代セシュネラ王国を再編した。ロカール派信徒は階級の隔絶とその不変を信じており、贖罪のための苦行を称揚している。統一と品行方正な生き方がロカール派信仰の中核を占める。ロカールは聖人崇拝についてとくに言及しておらず、教会内部では神への純粋な帰依を妨げるものとして、そのような馬鹿げた[聖人]崇拝を排斥する強力な運動が起こっている。その代わり、もっぱら神の特定の権能に奉仕する、聖別された設立者を持たない教団が複数あって、これらが信徒に魔道書を供給している。


その他の宗派

フレストル改革派教会 The Hrestoli Reformed Church

設立者:フロネラ宗務院 (9世紀)
地域:ジュノーラの一部、ジャニューブ川河谷地帯の一部

 フロネラ全域が「大破門」に陥ったとき、多くのフレストル派信徒がロスカルム王国の教会の庇護から切り離された。ロスカルム人が新しい求全派を形成する間、残された人々は古い教えにとどまっていたが、彼らの多くは今日でも古い信仰の中にはなお真実が埋もれていると信じている。改革派の信仰は、「階級」が個々の功績に拠っていると認めるなど、多くの点で求全派と似通っているが、各人は両親と同じ「階級」の者として生まれると信じる点に相違がある。このような信仰は[マルキオン教では]あまり一般的ではない。


フレストル正教会 The Orthodox Hrestoli Church

設立者:四使徒 (12世紀)
地域:城砦海岸

 神知者の没落の苦しみの中で創建されたこの宗派は、かつては今よりも広大な地域を指導していたが、15世紀のロカール派の躍進に圧迫された。正教会は、預言者が第五の階級、騎士階級を設けていた、と信じている。騎士階級には、功績と伝統的な四階級それぞれの最上の徳目を持つ者だけが昇進することができる。


サイアノール教会 The Syanoran Church

設立者:大熊坊ジョナート (12世紀)
地域:ジョナーテラ、カルストール伯領、ティムズ伯領、ジュノーラの一部、ジャニューブ川河谷地帯の一部

 かつての異教の地、ジョナーテラで創建されたサイアノール教会は、フロネラ全土に普及していたテイロールの教義ではなく、セシュネラから伝来したガーラントの教えを素地としている。にもかかわらずこの宗派は強大なものとなり、「大破門」を経ても、ジャニューブ河谷に一部の異端を産み落としたのみで、ほとんど統一を失わなかった。教会は農民階級が、この地の土着神に似た「エリム Elim」と呼ばれる天使を崇拝することを認めている。上位三階級は自らの意思をより純粋により強固に保とうと心がけ、より伝統的なマルキオン教典礼で礼拝を執り行っている。


ガルヴォスト教会 The Church of Galvost

設立者:ガルヴォスト Galvost
地域:セイフェルスターの一部

 ガルヴォスト派は護教のために異教徒から《切開》することを容認している点で独特である。彼らは現在は比較的小さな宗派ではあるが、英雄戦争の到来に伴って信徒を増やしつつあるらしい。


パマールテラの諸教会 Pamaltelan Churches

 南方大陸は互いにいがみ合う多くの宗派を抱えている。これらの宗派の多くは、今日の信仰と曙の時代の信仰ほど、マルキオン教の本道から逸脱している。これらの中でもっともその名を知られているのは、セダルピスト派 the Sedalpists である。この宗派は、非人間種族の根絶を唱えており、また戦士階級を不浄の階級とみなしている。


単一神教

オトコリオン単一神教教会 The Henotheist Church of Otkorion

 ラリオスで発生した。これがこの地域の完全自治独立な単一神教教会のうちで最大である。彼らは唯一の正しい神とともに異教の「神々」をも崇める。だが彼らの社会に残るこうした異教的要素はより厳格な信仰によって次第に拭い去られつつある。


アーカット派 The Arkati

 恥辱にまみれたかの「英雄」、アーカット、信奉者たちを裏切って人にあらざる怪物に変じたかの者を支持する者たち。アーカット派は敵対する小宗派同士をあい矛盾する教義ごと自らの中に取り込んでいる。一方は暴力的、他方は平和的といった具合である。だがすべてのアーカット派信徒は千年王国思想の強い伝統を持っており、また英雄戦争は彼らの狂える預言者の帰還の先触れであると信じている。


ヒョルトランド・アイオリア教会 The Aeolian Church of Heortland

 中央ジェナーテラで古くに土着化したアイオリア派は、マルキオン教の本流から離れて独自に発展してきた。オトコリオンの単一神教徒たちと同じく、彼らは見えざる神と同時に異教の神々をも崇拝しているが、両者への信仰はオトコリオン人ほど癒着してはいない。


ウェアタグ派 The Waertagi

 人間もどきのウェアタグ人は、今日では非力な存在となっているが、英雄戦争において彼らは復権するだろうと予言されている。彼らは嵐の時代にマルキオン教の本流から離れた。彼らは、マルキオンの庶子の一人が[この時代に]始まったばかりの一神教に深海に棲む大いなる者どもへの信仰を結合させた、と主張しており、これを預言者としている。


邪宗および異端信仰

カルマニア派 The Carmanians

 これはフレストル改革派教会から派生した異端で、「預言者」カルマノス Carmanos の教えに従い、彼をマルキオン信仰の崇拝対象としている。カルマノスはマルキオン教の宗教上の見解の多くに疑問を呈しており、彼は、現世は人を罪に陥れようとする悪魔の創った罠である、と見なしている。カルマニア派信徒の魔術の源は、イドヴァヌス Idovanus と呼ばれる光の具現であり、これは「真理」そのものとも見なされている。カルマニア派には農民階級はなく、[原住の]異教徒たちがこの任に充てられている。


ボリスト派 The Borist Heresy

 この卑劣な異端派は、「告解」と呼ばれる非常に《切開》とよく似た儀式を通じて混沌の痕跡の浄化をなしうる、と信じている。ボリスト派信徒はこの異端の儀式によって混沌の力をしばしば自らの内に取り込んでしまい、結局、彼らが破壊したよりもより強大な化物を創り出してしまう。


堕在教会 The Church of the Damned

 この歪んだ異端派は、ラマリア王国に根ざしており、マルキオンの歪像の左右に鬼神を並べて拝んでいる。彼らは、カルマニア派と同じく農民階級を持たず[、原住の異教徒たちをその任に充てている]。


無神論

ブリソス派 The Brithini

 彼らは原初に発生したマルキオン教本来の信仰にもっとも近く、彼ら[の考え方]はこの数千年間まったく変わっていない。彼らはその厳格な戒律に従う限りは不死でいられるため、定命の者たちがもつ観念や死後の世界などはまったく信じていない。


ザブール求道者 The Independent Zzaburi

 ザブールの道を行く者たちは、ブリソス派から派生したがもはや戒律には従わず、あらゆる魔術の実践をその旨としている。彼らはその魔術の実践において、教会が道徳上の理由から、あるいは神を畏れるゆえに課した制限に囚われない。彼らの一部は、ロスカルムの炎の魔術師たちのように、宗教的というよりも神秘的な信仰体系を有している。また、彼らのほとんどは自らが宗教色を帯びないよう努めている。


ヴァデリ派 The Vadeli

 悪魔崇拝の輩ども。