マルキオン教徒の神話
Mythoes Malkionorum
 
数秘学的連鎖(創造以前)
自然は可測関数であるから創造は最初の等差階級とともに始まったのである。知ることの出来ぬもの零の次に、一、すなわち創造主たる見えざる神がやってきた。そして彼は自然力を動き出させ、二、すなわち宇宙の二重性を創った。二は、三、すなわち既知の世界を創った…と続いていく。世界を形作する多様な元素と力は次々に繋がりゆく数学的な連鎖から出来ている。
相伝(世界の創造)
いくつかの巨大な宇宙的統一体が形を為し、そのそれぞれが膨大な可能性を秘めていた。これらの統一体はさらに分裂し、個性と人格を獲得した。例えば、原初の暗黒であり闇の持つすべての可能性を秘めたナカラは、恐怖の神デイホール、寒さの神ヒミール、影の女神スビーリーに分かれ、この三柱の神々はさらに細分されて、彼らの可能性を具現していった。
分類学的系図(動物の創造)
動物は名もない単純な生物から生まれた。その胤が時を経て、次第に複雑になっていった。
過ちの神々(黄金の時代)
はじめ人々は創造主の近くに住んでいたが、後の世代は強大な自然力を制御する術を学ぶために、過ちの神々と呼ばれるある種の生物となるために自然力に自らの魂を折り込んだ邪悪な魔法使いの誘惑にのって、それらを信仰するようになっていった。彼らは慰めと喜びの野から自身を切り離してしまい、そして預言者が現れた今も無知な蛮族は過ちの神々を崇拝している。
イーヒルムという魔法使いは太陽の力を作り出す知識を得たが、自分の得た秘密を分かち合うことを拒み、それらを利己的な目的のために使ったため慰めの野なき人生を運命付けられた。
ウォーラスという魔法使いは真実から逃れるため、嵐の中に自らを閉じ込めた。それ以来、彼はそこに留まるよう呪われている。彼はその強いられた流刑に憤り、世界に挑戦している。
フムクトという魔法使いは、自らの恐るべき魔術以上の力を求め、死の道を理解しようと企てた。彼の実験は試行錯誤から何百という犠牲者を殺し、彼はついに西方の国から追放された。
氷の時代、マルキオンの啓示(嵐の時代)
氷の壁は次第に這い寄りながら都市と国々を破壊してゆき、ついには太古の論理王国を取り囲んだ。絶望は人々を悪魔へと駆り立てる。ことに見えざる神は超然とした完全な存在であるため、その特質は信者たちが崇拝の正しい方法を決めることを妨げていた。それゆえ、戦いの最中に預言者マルキオンが生まれ、見えざる神についての真実が新たにされた。すなわち、神はこれまで常に存在し、これからも永遠に存在し続けるだろうこと、神は神々を超えた神であり、その下僕たちに救済と存在の目的を与えるということ、神は与えるのみで、決して奪うことはないということである。また彼は人々に、悪を孕んだ世界に住み、生き残る術を教えた。その教えの本質は、魔法を実践する者たちは死後に慰めの野に入ることができるというものであり、現世においては適切な社会階級と人生において自己の役割を持つことで幸福になれるというものである。彼は長き夜にわたって彼の民と祝福されたマルコンウォルを守った。
最終ヴァデリ戦争(大暗黒)
真のマルキオンと異端派ヴァデリとの長い対立は頂点に達し、大魔法使いザブールは恐怖と不正に満ちたヴァデリの地を大洋の波下に沈めた。
新しき光(大いなる盟約)
ザブールは、彼の類縁者たちの安全と健康を永遠に保証するものを、辛抱強く、力強く探し続けた。永劫の労苦と労働ののち彼の呪文は成功した。灰色で重苦しいはずの空は不意に明るくなった。農民は豊かになり、子供たちは増え、廃墟だった都市にも活気が満ち始めた。
フレストル(曙の時代)
心身を蝕む恐るべき疫病(黒膨病がセシュネラを襲ったとき、慈愛深いゼメラは自らの民を救うため自身の寿命と健康と魂を与えた。神は彼女を慈しみ彼女を新たな預言者の母とした。
マルキオンの教えは新しい状況に立ち向かうにあたり、一般的信仰の確とした基盤を欠いていた。新しき光より一年後、内憂外患に際して、高徳かつ天使のような預言者マルキオンがフレストル王子のもとに現れた。彼は古いマルキオンの教えが人間の永遠の魂と幸福のためには有害であることを学んだ。彼は見えざる神の天国において永遠の救済に到達する術を教授された。こうして、マルキオン教は新たな段階に入った。
銀の帝国(曙の時代)
見えざる神への新しい信仰は人々を啓蒙した。西方の人々は速やかに広がり、平和な商業帝国を築いた。ブリソスから離反したセシュネラ王国は西方文明の中心地となり、その繁栄は150年後の分派間の権力闘争が起こるまで続いた。
“裏切り者”グバージ(曙の時代)
ドワーフの中に外の世界に関わることを恐れない者たちが現れた。彼らはドワーフの秘密を人間に教えた。これを受けて傲慢極まる定命の者たちの一派は、完全な神を創造しようとした。彼の誕生の折、恐怖の前兆が全世界を揺るがし、一世紀も続く大いなる闘争が幕を開いた。
五世紀続いたフレストル派の信仰は外国や他の神々に向けて門戸を開いたものであり、その傾向はグバージの時代に全盛期を迎えていた。だがグバージの裏切りは内部からの腐敗を通して西方世界を滅亡寸前まで追いやった。彼は狡猾な手段で、西方世界のすべての人々を混沌で汚染した。グバージの邪悪な帝国の絶頂期には、ヴァンパイアは大手を振って歩き、病の主は癒し手より重んじられ、街々の全民衆が混沌の諸相を受け入れた。
グバージの崇拝者がフロネラまで浸透したとき、テイロールは他の国々からやってきた英雄たちに助けられ、軍を率い、密計を指揮し、古代の秘密を奪い、手向かう敵をすべて葬った。その間、彼は残忍なユーモアの歪んだセンスを保ち続けたが、それが彼を見捨てた。
“混沌の征服者”アーカット(曙の時代)
アーカットはブリソス島のエルフに育てられ、13歳で戦士学校に入った。太陽暦400年、彼はタニソール王国討伐軍に従軍するが、彼を認めないブリソス社会の厳格さを嫌って彼はセシュネラに亡命した。彼はそこで魔術を学びながら戦歴を重ね、太陽暦417年、対混沌十字軍大将軍に任命された。彼は屈せずにそれをやり通したが、結局は自身の反混沌願望の餌食となり、偽の神々の信仰へと堕した。セシュネラ王ガーラントは王国を救うためにアーカットを用いたが、彼が信仰に背いたため、ガーラントは彼の敵にまわった。
それでもアーカットは戦いを続け、この戦いのうちに彼はグバージが世に大いなる害悪を広めようとしていることを明らかにし、しかる後、それをとどめた。アーカットとグバージの戦いは75年に渡って続き、今も長い叙事詩に詠まれている。
グバージを殺しはしたものの、アーカットは己の狂信によって理性を損ない、苦悩し、苦痛をしばしでも逃れるため、邪神の信仰へ走ってしまった。その過程で彼は人々を遠ざける異常な変容を辿った。己の任務を十全に果たしながら、道を誤り万人の非難の的となったのである。
暗黒帝国(曙の時代)
アーカットはラリオスに引退すると広大な暗黒帝国を建国した。帝国ではすべての人間が名誉をもって扱われ、そこに西方文明とゼイヤラン文明が混淆したセイフェルスター文化が華開いた。そして皇帝たちは異端に対して退くことなく戦った。それゆえ、後継者パズラックは神知者との戦いにおいて、ついには裏切りのために殉じ、暗黒帝国における最後の皇帝となった。
神知者(帝国の時代)
新しい光以来、ウェアタグ人は海上交通の支配者であった。ジルステラの神知者は彼らの独占に挑戦し、太陽暦718年、タニアンの勝利戦争でそれを打ち破った。
正義に帰れ運動(帝国の時代)
太陽暦734年、正義に帰れ運動はオーランス教徒の王アンマクからセシュネラを解放したセシュネラ王となった指導者スヴァガドは、太陽暦789年、ジルステラ帝国に参入した。帝国は彼を皇帝に戴き、ここに海と陸の帝国が成立した。帝国は強大な陸海軍を手にした。
ジルステラ帝国(帝国の時代)
海軍力、寛容と統一という新しい哲学、そして神知者の魔力を武器に、ジルステラ人は世界を渡っていった。彼らは最終的にはほとんどの沿岸諸国を自らの帝国に加るまでになった。
彼らはイサリーズのカルトの言葉を交易語として世界中に広め、帝国の言語を統一した。
彼らは、太陽暦768年、内的到達への道教団を利用して、クラロレラ帝国の竜帝を倒したこのとき何百万もの農民が殉死したが、太守や司祭たちは時期を逸し、忘却王国へ亡命した。
竜帝を退けた神知者は、新竜環という五人制の組織を作ってクラロレラ支配に乗り出した。彼らは支配体制強化のため偽の竜帝を祭り上げる一方、この地の魔術儀式の徹底解剖を始めた。
マルキオン主義解放運動(帝国の時代)
ヴァルカローは神知者たちの裏切りにあい、豊かな家を後に遥か東方諸島への旅に出た。その地において彼はマルキオン主義解放運動を伝導し、一つの島の全住民を改宗させることに成功した。彼はブリソスの外交官によって煽動された戦争で、ヴィゼラ帝国から改宗者を守った。
陸地の沈降(帝国の時代)
古き力は神知者を跡形も無く滅ぼすため、山を震わせて低くし、丘を持ち上げ、陸地を沈め神知者文明の主要な中心地すべてに向けて大津波を差し向けた。
破滅を最初に予言したのは、太陽暦813年の七本筆のヴァラストスの精霊界の異変に関する報告である。それを裏付けるように異常気象が次々と起こった。太陽暦917年のセシュネラの無風台風、925年のラリオスの氷の夏、ジルステラ、スロントス、セシュネラを沈めた地殻変動、そして太陽暦920年にブリソス島で始まった「大閉鎖」である。
神知者に虐げられていたアーカット教徒は先頭に立ってジルステラの破壊を支援した。
海の大閉鎖(最近の数世紀)
ブリソス人にとって死後の世界は存在せず、魔術による復活のみがある。ゆえに彼らは変化を極度に恐れた。ザブールは彼らの願いを受け、太陽暦920年、強力な魔術で世界からブリソス島を隔離した。島の港は目に見えない壁に遮られ、商船はことごとく転覆し、外界へ漂流した。辛うじて破滅から無事に逃れた一握の船が事件をネレオミ海各地に伝えた。そして調査の結果、この障壁が毎年約300kmの速度で島から広がりつつあることが明らかになった。やがてこの放射状に広がった強い魔力は、その性質と速度を変化させながら次第に世界を包み込んでいき、海上からすべての船が消えた。壁がジルステラを封鎖した時には、高さ5mの津波が壁に先行してこの地を襲った。以来、沿岸から2km以遠の外洋航海の手段は完全に絶たれた。
ルアーサの襲来(最近の数世紀)
太陽暦1049年、セシュネラに一隻の船がやってきた。この船に乗っていたのは黄昏の門立つルアテラの地の住人、半神ルアーサで、彼らは魔術で大地を揺るがし、セシュネラの大地を現在の島嶼に変えてしまった。そして彼らは今なおセシュネラに住み着いている。
紫の半神たちによって危機に見舞われたセシュネラでは、保守的なロカール派が勢力を拡大し、宗教改革以前のブリソス社会のような固定身分制度が復活した。
シンディック大破門(最近の数世紀)
太陽暦1443年、ロスコルム王子スノーダルはオーランス教徒に追われ、英雄界アルティネラに逃れた。彼はそこで近未来のフロネラの地図を手に入れたが、それによればフロネラが破壊されることになっていた。40年後、帰還した王子はオーランス教徒を追い払い、地図の意味を調査した。異国の司祭の言によれば、その地図はザブールに原因があるというのだった。
太陽暦1499年、王子はルーンマスターたちを率いて英雄界に旅立ち、通信の神である“銀足の”フロネラを暗殺し、その遺体に恐るべき儀式を施した。全世界は呪われた。国々は孤立し、音信は途絶えた。スノーダルは帰還すると灰色の霧に包まれた自分の国に気付き愕然とした。
この霧に関するある調査は、霧の中を五週間彷徨い、漸く脱出してみるとそこは出発地点でしかも数時間しか経っていなかった、と伝えたが、霧に入った多くの者は帰ってこなかった。
海の大解放(最近の数世紀)
太陽暦1580年、“水夫”ドーマルは、船隊を建造し、船上で特別な儀式魔術をかけて、外洋航海に乗り出した。一年前から似たような試みが行われていたのだが、失敗が続いていたのである。彼はその儀式を西ジェナーテラの人々に伝授し、他の者たちも彼の航海に続いた。それから一世代のうちには、船は海上を再び行き来するようになった。
シンディック大破門の雪解け(最近の数世紀)
大閉鎖が破られるとともに、大破門もまた緩み始めた。太陽暦1582年、雪解けはロスコルムから始まり、ジャニューブ川に沿って東進し、四年間でロスコルムは大破門から完全に解放された。しかし、フロネラの東方や北方の一部には、未だに侵入できない地域が存在する。
大破門が緩むにつれ、以前には存在しなかった人々や国々が発見された。中でも重要なのが戦争王国である。この国は兵士と戦闘魔術師によって構成されている。その指導者、馬上の死神卿は非常に残酷な人物で、周囲を次々と侵略し、太陽暦1620年、パーフェイ市を奪取した。ロスコルム王国はパーフェイ伯の救援要請を受け、対戦争王国十字軍運動を展開している。

Extremum Scriptum "Mythoes Malkionorum"