奴隷
Slaves
http://www2u.biglobe.ne.jp/~BLUEMAGI/TradeinGlorantha.pdf

 奴隷貿易はグローランサのほとんどで見られる、不快ながら彼らの生活の一側面である。奴隷の長距離交易は多くの困難を抱えており、とりわけ奴隷の損傷(これによって売価が低下する)と反乱・逃亡の危険性([幸いにも]生糸のような積荷が運搬する商人を殺そうとすることはほとんどないのだけれど! [奴隷のような商品ではそうはいかない。])が考えられる。地球の歴史では、もっとも長い距離を運ぶ奴隷の長距離交易では奴隷は他の、より有利な交易(サハラを縦断する黄金交易のような[換金率が高い]場合と、地中海交易のような殷賑を極める交易の[輸送コストが低い]場合がある)のついでに商われた。例外は大西洋におけるプランテーション農場に送るための奴隷貿易だが、これは購入時の破格の安さとほとんど水上輸送によっていたことによる輸送コストの低さの双方の理由に加え、初期の大西洋交易の非常な利率のよさに支えられた圧倒的な需要のためである。一般的に、ジェナーテラの奴隷貿易はかなり地域的なもので、商業的大規模奴隷農場が経営されているいくかの地域を除いて、かなり小規模なものである。

 ペローリアやクラロレラ、その他一部の地域の裕福な家では奴隷はさまざまな用途に用いられている(1)。奴隷貿易に支えられていた地球の環大西洋経済圏において見られたような奴隷制度を支持している地域はジェナーテラではほとんどない。ペローリアの広大な穀物農場では奴隷たちが働かされているが、彼らのほとんどその地方の人間か、ルナー帝国による戦争奴隷である。ゾーラ・フェル河谷やテシュノスの砂糖黍プランテーション、テシュノスやクラロレラの茶のプランテーションでも奴隷が働かされている。クラロレラでは米の栽培にも奴隷を用いることがある。これらの諸地域では自分たちの地域から奴隷を調達しているが、それは16世紀から19世紀のアフリカのような豊富で安価な奴隷の供給源がないからである(2)

 一部の奴隷はプラックスが奴隷の供給源の一つであることから「プラックス」と呼ばれている、と設定しているサプリメントもある(3)。だがプラックスの人口密度の低さと奴隷の陸路交易の難しさから言って、[プラックスが有力な奴隷供給源であるということは]ありえそうもない(4)。さらに、プラックスの部族間抗争で得られる奴隷は売り払うよりも部族の戦力増加に用いた方が価値があるように思われる。そして、プラックス人奴隷のほとんどすべては他のプラックス人か、パヴィスやゾーラ・フェル河谷に住んでいる人々によって買われるだろうと思われる。


  1.   いわゆる家内奴隷は、単なる農夫や家政婦として用いられる場合がほとんどだが、美しければ妾として、能力があれば管理者として用いられる。そのような奴隷は我々が考える奴隷というよりも、終身雇用と考えた方が実態に近い。
     ローマ帝国では、雄弁術の教師にギリシア人奴隷を用いたが、この教師奴隷はギリシア人知識人の憧れの職業であった。もちろんこのような奴隷は侮蔑を受けることはなく、むしろ教え子たる貴族の子弟の言葉よりも教師奴隷の言葉の方がしばしば重んじられた。
     イスラム世界では、アッバース朝初期にホラサーン騎兵の大規模な反乱が起こって以来、伝統的に軍人を奴隷から得ていた。奴隷は主人の意のままに処分できることから、このような軍人奴隷で官僚組織を構成することで、絶対君主制を確立していたのである。このような制度の下では、奴隷供給地では栄達のために奴隷となる者は多かった。
     イスラム世界では、外戚の悪影響を排するために君主の妻を奴隷から得る国も多かった。このような国では、高官が君主の寵を得るために競って美しい女奴隷を得ようとした。やはりここでも、奴隷供給地では富貴のために娘を最高の女奴隷に仕立てようとする親は多かった。
     かようにローマやイスラム世界では、西欧とは異なる奴隷制を営んでいたのだが、もちろんこういった「幸せな」奴隷は少数で、大部分はガレー船の漕ぎ手や農業など、人の嫌がる仕事に就かされていたことも事実である。

  2.   地元から奴隷を調達する、といってもこれは自分たちと同じ宗教を奉じる者たちからではなく、彼らが劣等民族と見なしている者たちからであろう。
     地球では、西洋においてはキリスト教やイスラム教といった、信徒の平等を約束する宗教が一般的になったため、奴隷をロシアやトルキスタンなど異教徒の住む遠方に求めざるを得なくなった。新大陸のコンキスタドールはエンコミエンダ制(インディオを教化する見返りに労働力として使ってかまわない、という制度。実際は、インディオの奴隷化を合法化する結果に終始した)を維持するために、ヨーロッパから派遣された伝導師の活動を妨害したりした。中国では、動産としての奴隷を所有することは、すでに漢代に禁止されている。
     グローランサの、とくに奴隷制が一般的とされるペローリアとクラロレラの奴隷供給源を考えるなら、ペローリアでは上ペーローリアのオーランス教徒やペントの遊牧民、クラロレラでは忘却王国やソファール諸島の未開人たちであろうか。あるいは、天界の位階の定まった太陽信仰であることを考えると、インドのように奴隷階級があるのかもしれないが。

  3.   ちなみに、"Unspoken Word Tarsh" によると、ターシュでは奴隷のことを「バラザール」と呼ぶらしい。

  4.   プラックスでは奴隷を供給するほどの人口密度がないとしているが、彼の地のように部族間の抗争が頻繁で、かつ工業製品に比して人間の価値が低い地域では、中世期の地球におけるロシア、トルキスタン、東アフリカのように奴隷の供給地となる素質は十分にあるといえる。前近代において人口増加を抑制しているのはほとんど食糧生産量であり、人口が減っても食糧がある場合、人口はその食糧供給の限界まで速やかに回復する。