ケレトの物語
the Tale of Keret
 

 偉大で優れたフブル Khubur の王ケレト Keret は後継者を作る間もなく、8人の妻を病気や事故で失った。悲しむケレトを見て、彼を愛していた至高神エル Elは彼の夢に現れ、彼の悲しみを癒すべく王位と富を与えた。だが悲しみは癒されず、彼は相続人となる息子のみを切望していた。
 そこでエルはケレトに、塔の上でエルと審判者バール Baal のために獣とワインの供物を捧げ、兵を召集し、ウドム Udm の街を攻めるよう指示した。そこで、ケレトはウドム王パビリ Pabil からの和平案を蹴り、かえって彼の娘である美しいフライ Huray 姫を要求した。そしてケレトはエルの指示通りにし、成功の暁にはフライ姫には莫大な富を与えようと自らに誓った。
 かくしてケレトはフライ姫を伴って凱旋した。エルの祝福とバールの命令は、ケレトに8人の息子を約束した。長男はヤッスィブ Yassib といい、彼はアシラトとバールの妻アナト Anath に養育された。さらにフライ姫は8人の娘ももうけた。子供たちはみな、長子と同様に祝福された。アシラトはケレトに、おまえはすでに満たされたのだからフライへの富の約束を忘れてはならない、と注意を促した。

 その後、ケレトとフレイはフブルの貴族たちを招いた饗宴を催した。すると、ケレトは死の病に冒された。フレイは宴に集まった客たちにケレトのために嘆き、供物を捧げてくれるよう懇願した。
家庭は張り詰め、ケレトの息子エリフ Elhu は気落ちして父の元を訪ねた。ケレトは彼には悲しまないように伝える一方、彼に思いやりのある妹、ティトマナト Thitmanat を呼びに行かせた。ティトマナトは同情したが涙を流したが、聡いケレトはその涙から真実を悟った。自分の状態は、神々に供物を捧げさせるよう喚起させるものであったのだ。
 エルは神々の会議を招集し、ケレトを癒すため女悪魔シャトカト Sha'taqat に「粘土で作った竜の像」を持たせ急派した。竜の像を額に当てると、ケレトの病は嘘のように解けた。ケレトの息子にして後継者たるヤッスィブは父が癒えたのに気づかず、父王が責務に怠惰であるとして禅譲を願い出た。しかしヤッスィブは拒絶され、呪われた。

※ 神々に固有の神話に関してはその神の項を参照のこと。