アクハトの物語
the Tale of Aqhat
 

 冥界の王レプ・バール Repu Baal の信者、ハラナン Harnan 王ダニエル Daniel には彼の兄弟のように子宝に恵まれることがなかった。そこで、彼は神々に食物と酒を供物として捧げ続けることにした。7日目に、彼の祈りは審判者バール Baal の関心を引いた。バールは彼と妻ダナタイ Danatay の間に子が生まれる許しを至高神エル El に求め、エルは生まれ来る子が寺院に供物を捧げつづけることを条件にそれを許し、ダニエルには、間もなくお前の運命が変わるだろう、と伝えた。ダニエルは喜び、受胎と出産の女神コシャラート Kotharat に牛を屠殺して捧げるほか、神々に犠牲を捧げつづけた。神々は7日目に去っていった。神々に会っていくうちに、ダナタイはアクハト Aqhat を生んだ。

 アクハトが生まれてからしばらくして、匠神コシャル・ハシス Kothar Hasis がアクハトのために特別に作った弓と一揃えの矢を携えて訪れた。ダニエルとダナタイは宴をもうけてこの神をもてなした。そしてダニエルはアクハトに弓を贈りながら、狩りの獲物のうち、最良のものを神々に捧げることを忘れてはならないと諭した。
 あるとき、愛と戦争の女神アナト Anath はすばらしく成長したアクハトを見出した。アクハトが狩りをしていると、アナトが目の前に現れ、富と不死を条件にその弓を譲ってくれと言った。しかし、彼はそれを断る。何度もアナトは頼み続けるが、アクハトは弓を渡そうとしない。ついに激怒した彼女はアクハトに復讐を誓い、アクハトが背いたことをエルに訴えるためレル Lel 山へ向かった。だが、エルの裁定はアナトの方を非としたので、アナトはエルに頭を勝ち割るぞ、と脅し、皮肉たっぷりに、そうしたらアクハトがあなたを救ってくれるかもね、と言った。エルは、アクハトはアナトの復讐を逃れ得まいと認め、そうしてアナトはアクハトを見つけた。アナトはアクハトの親戚の女性に姿を変じ、彼をクァルト・アビリーミ Qart-Abilim におびき出そうとした。だがこの最初の試みは月の神ヤリフ Yarikh のおかげで成功しなかった。そこで、彼女はお抱えの戦士ヤトパン Yatpan を呼び出し、彼を鷲の姿に変じさせ、猛禽類の群れを率いさせ、山上で食事中のアクハトを襲うよう命じた。彼らはそのようにし、アクハトは打たれたが、不幸なことに弓は水面に落ち、失われた。アナトは、アクハトの死が無駄であったと自らの行いを後悔した。アクハトの死に続いて、この土地は毒され、飢饉と旱魃がやってきた。

 アクハトが死んだとき、アクハトの妹プガート Pughat はなにやら鷲が気になるのはどうしてなのだろう、と思い煩った。ダニエルは再び雨が降り、わずかに残る植物が育つのを助けるよう、そして育った植物をアクハトが収穫できるよう、嵐の神でもあるバールに平原を駆け巡ってほしいと祈った。プガートはアクハトの従者に会い、その死を知るとダニエルにもこのことを知らせた。するとダニエルは息子を殺した者への復讐を誓った。続いて彼は鷲を、中でも鷲の父ヒルガブ Hirgab と鷲の母スムール Sumulを観察した。彼は自分がこの鷲どもの体の中からアクハトの遺骸を捜せるよう、これらの羽根と肋骨を壊してほしいとバールに願った。果たして鷲どもの体からは見つからず、彼は鷲どもとヒルガブの体を元に戻してほしいとバールに頼んだ。だがスムールの体の中からアクハトの遺骸が見つかり、彼はアクハトを埋葬すると、自分を苛んだ鷲どもの骨を砕き、息子の殺された辺り一帯の土地を呪ってくれるようバールに願った。
ダニエルの宮殿は7年間喪に服し、彼は雇っていた泣き女たちを解散させ、香を焚いて神々に捧げた。プガートはアクハトを殺した者に復讐すべく、アナトに変装し冒険に出る自分を祝福してくれるよう神々に祈った。そして旅の末、彼女はヤトパンに出会った。彼女は彼のワインを受け入れて・・・。[以下、テキスト破損]

※ 神々に固有の神話に関してはその神の項を参照のこと。